
ゴールド価格は過去3営業日にわたって下落しており、現在は1トロイオンスあたり4,000ドルをわずかに下回る水準にあります。本レポートでは、先週FRBが示した利下げ観測への疑念、米中間の「貿易に関する和平」合意、米国政府のシャットダウン問題、および世界金評議会(WGC)による第3四半期の金需要データについて取り上げます。
また、これらの要因を踏まえた**金のテクニカル分析(日足チャート)**も紹介します。
FRB、年内追加利下げに慎重姿勢を示す
FRBの会合は先週水曜日に開催され、当レポートではまだ触れられていませんでした。市場の初期反応はすでに出ていますが、パウエル議長が「12月の利下げは既定路線ではない」と発言したことなど、FRB当局者のタカ派的な姿勢が明確に示されました。この発言を受けて、今後他のFRBメンバーが同様の慎重なトーンを示す場合、ドル高・金安要因となる可能性があります。逆に、年内最後の会合(12月)で利下げの可能性が再び浮上するような発言が増えれば、金相場の支援要因となるでしょう。筆者としては、FRBが今月中は「ややタカ派」スタンスを維持する可能性が高いと見ていますが、政府閉鎖による米経済への悪影響が顕著になれば、トーンが変化する可能性もあります。総じて、パウエル議長の発言は短期的に金価格を押し下げたものの、12月までにはストーリーが転換する余地があります。
米中「貿易和平」合意が市場を安定化
今月初めまでの市場の主要懸念は、中国と米国の間で続いていた貿易摩擦でした。
しかしこの問題は、以下のような合意により一定の解消が見られています。
- 中国側は、10月9日に発表したレアアースなどの輸出管理強化措置の実施を停止
- 3月4日に発表していた報復関税の停止
- 米国企業に対する反トラスト・反独占・反ダンピング調査の終了
一方で、米国側は「中国からの輸入品に課していた関税を、2025年11月10日から10ポイント引き下げる」などの譲歩を表明しました(ホワイトハウス声明より)。このような世界2大経済大国の貿易戦争の終結により、**安全資産である金からの資金流出(リスクオン転換)**が生じ、金価格を押し下げた可能性があります。筆者の見解では、近い将来に再び緊張が高まる可能性は低いと考えます。
米国政府のシャットダウンが継続
米国政府は過去35日間閉鎖状態にあり、これはトランプ前政権時の最長シャットダウンと同水準です。この長期化は米経済に深刻な悪影響を与えており、継続するほど景気への懸念が高まることになります。そのため、リセッション懸念が再燃すれば、投資家による安全資産としての金への資金流入が起こり、金価格上昇要因となる可能性があります。一方で、政府再開に向けた楽観的な見方も一部で広がっており、ポジティブな進展があれば金価格の重しとなるでしょう。
第3四半期の米国金市場動向
世界金評議会(WGC)のデータによると、「店頭取引(OTC)を含む金の総需要は前年比3%増の1,313トンとなり、四半期ベースで過去最高を記録。一方、**金の取引金額ベースでは前年比44%増の1,460億ドル(史上最高)**に達した。」主な需要の牽引役は投資家による金購入であり、この流れが続く場合、今後も金価格の支援材料となる可能性があります。
テクニカル分析

サポート:3980 (S1), 3895 (S2), 3790 (S3)
レジスタンス:4045 (R1), 4145 (R2), 4240 (R3)
金(XAU/USD)はやや上昇基調で推移しているように見えます。しかしながら、一目均衡表の雲(Ichimoku Cloud)が上値抵抗帯として機能する可能性があるため、当面は慎重な「横ばい(レンジ)」バイアスを維持する見通しとします。この横ばいシナリオを維持するためには、
金価格が**3980ドル(S1:サポート)と4045ドル(R1:レジスタンス)**のレンジ内にとどまる必要があります。一方で、弱気(ベア)シナリオとなるためには、10月28日から続く上昇トレンドラインおよび3980ドル(S1)サポートラインを明確に下抜ける動きが必要です。この場合、次の下値目標としては3895ドル(S2)サポートラインが意識されます。逆に、強気(ブル)シナリオを想定するためには、4045ドル(R1)レジスタンスラインを明確に上抜ける動きが求められ、その場合の次の上値目標は4145ドル(R2)レジスタンスレベルとなります。
IronFX上級リサーチアナリスト
ピーター・ヨシフ
公認会計士(ACA)、ICAEW会員
